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「そこにある姿についての洞察」(1)
岡田恭幸 (同志社大学法学部法律学科2回生)* プロフィール
E-mail:SNC01192@nifty.com

 この小説は、私の生涯において、おそらく最後の作品になるであろうと予感できる。もう私は若くない。あまりに歳を取り過ぎた。
 若き時分、私は小説家の大志を胸に抱き、創作活動に明け暮れたものであった。が、その夢は終に叶う事は無かった。無教養な私の文体は歯牙に掛けられることも無かったのだ。
 また私は、それを磨こうと、努める事さえ怠っていた様に思う。これは私の尊大な自尊心のみが、私の内面に才能を見出していたためであろう。そして私は、いたずらに時を空費してしまい、遂には落伍者と成り下がった。私の夢は私自身によって踏みにじられたのである。
 今、私は痛烈な悔恨の情に駆られている。しかし、生憎、年老いた身の上、私には時間が無い。余りに無い!ただ、目の前に迫る死を迎ゆるのみとなった。そして目の前の鏡は、同情する様子も無く、白髪のみすぼらしい私の姿を映し出している。夥しい数の皺が肌を刻み、皮膚は赤とも黒ともつかぬ色と膿に犯され白髪は所々、円状に抜け落ちており、その皮膚は露わになっている。認めがたい確信があった。  

「間違い無い、これが私だ。」

 時計は古い音と共に午前一時を告げた。歓楽街からは、アルトサックスが夜の静寂を切り裂き耳には、いつまでもその音が貼り付いていた。昨日と同じ夜に・・・昨日と同じ夜?いや、それは違う。私は又しても死へと一歩近づいてしまったのだ。ただそれだけだ。
 痛恨の微笑で私は再び目の前の鏡を覗き込んだ。そこには、訝しげにこちらを見つめてくる目が在った。私はその目を鋭く睨み返した。
するとその目は突然、虚構を帯びた。その目は何処か嘘っぽく白々しい。そして暗黙のうちに自身を否定しているようにさえ見えた
  きっとこの老人は自分の生から逃避し続けてきたに違いない。なんと哀れな目なのであろう!私は睨むのを止めてしまった。慈悲という言葉が的確なのであろうか。私はそのような感情に駆られていたように思う。私は泣いていた。
 不意に、その目が笑ったように見えた。嘲笑がその目からは取って見られた。
この目は私のものだろうか。次の瞬間、私は正気を失くしてしまった。そして、確信が揺らいだ。

「これは私なのだろうか。」 

それは私が今、ここにいるという事実が破棄された瞬間だった。私は短絡的な結論に辿り着いた。

―この世に私は二人いるのだ―

 依然と鏡の中の目は、嘲笑の色を帯びている・・・

岡田恭幸

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