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「そこにある姿についての洞察」(2)
岡田恭幸 (同志社大学法学部法律学科2回生)* プロフィール
E-mail:SNC01192@nifty.com

それから間もなく、心臓を底の方から冷たく抉る様な感覚が老人に訪れた。
鏡からは嫌悪感が反射され伝わってきた。そして目を背けた老人から、しばらく空白が時を奪った。その老人には何の思考も許されなかった。もちろん老人は、人一倍臆病という訳では決してないのであるが、この不安から去来する恐怖ではなく、恐怖が呼び起こす不安に果たして彼は、耐えうることが出来たであろうか。
彼は目の前に捕えたのだ。その次の瞬間、それは自己全否定の肖像へと姿を変え た。それは確かに彼の目では無かった!

「これは私では・・・私は、私では無いのか」

そして、虚脱感が彼を包んだ。彼には、全て理解できなかった。全てが意味を失って いるように思われた。
意味の無い机、意味の無いペン、意味の無いインク、そして意味を失ってしまった鏡に映る自分の姿。

「これは何だ?」

老人を支配していたのは、この場から離れたい、ただ一つのその感情であった。
鏡を覗き込んだ彼は、いつものように自分の生を懐疑的に反芻していた。その果ての無い不条理に彼が下す一応の結論は、いつも自虐的であった。だが、その結論?は いつも彼を慰めた。

「私はどうしようも無い負け犬だ。しかし、私はここにいる。ここにいることが出来るのだ!」

その惨めな生への執着のみが彼を慰めていたのだ。したがって今回のような事は彼に とって、どれほどの恐怖であったかは、想像に難くない。それはあまりにひどい恐怖であった。もう一度、鏡を覗き込む事は不可能であったのだ。彼には。彼は部屋を飛 び出してしまった。
何ということだ!またしても彼は逃避してしまった。このような逃避を積み重ねた結果が、彼の人生を動かす歯車を大きく狂わせてきたというのに!

岡田恭幸

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