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「そこにある姿についての洞察」(3)
岡田恭幸 (同志社大学法学部法律学科2回生)* プロフィール
E-mail:SNC01192@nifty.com

彼はその場から逃げた。必死の臆病さを醜いほど露わにしながら、彼は扉をまるですり抜けるかのように、夜の闇の底へとその姿を消した。そして意味を失った彼の部屋では、取り残された古時計のみが、自分の存在を確かめるかのように、午前3時の鐘の音をゆっくり、とてもゆっくりと吐き出していた。
その醜い老人は闇の底を駆け出した。暗闇は掻き分けても掻き分けても、じっとりと6月の湿気のように無表情を装って、彼の赤黒い肌にまとわりついてきた。

そして息が切れる頃、彼は行き止まりへ辿り着いた。

そこから先には道というものが無かった。老人は目の前の壁に両手をつき、空を見上げたが、空というものは無かった。黒い壁が辺りを包み込むようにその空間を支配していた。期待した空は暗い天井であったため、ついに彼は月の光というものを見ることが無かった。そして相変わらず執拗に肌にまとわりついてくる暗闇が、彼に強い閉塞感と、天井が迫り来るような圧迫感と、幽かな絶望感を与えた。もはや目の前に彼を照らす光は何も無かった。・・・それは完璧な行き止まりであった。
そして、彼が駆け抜けた道を振り返ると、それは遥か彼方まで、並木林のような暗闇と共に垂直に伸び、その先に白金の光がおぼろげに映っていた。彼の駆け抜けた道は1本道であった。
「おかしい、どこで私は間違えたんだ。」
彼は、なんとか冷静であろうと努めるのだが、そうすればそうするほど取り留めない孤独感が去来し暗闇が彼を内側から侵食した。それから間もなく、彼の額から汗が1滴、音無く地上に落下した。或るいは涙だったのかもしれない。しかし音が無かったため、それが何であったのかは誰の知る由でもない。
彼には暗闇の向こうに映るおぼろげな白金の光が、天から自分を地獄から救うために垂れ下がる蜘蛛の糸に思えた。そう思うと彼はわき目も振らず白金の光に向かい駆け出した。しかし、それは追いかければ逃げていった。猛暑の中を行く旅人をあざ笑う逃げ水のように。

そして息が切れる頃、彼は行き止まりへ辿り着いた。

・・・またしても、それは完璧な行き止まりであった。彼は溜息を飲み込んで駆け抜けた道を振り返ると、それは遥か彼方まで並木林のような暗闇と共に垂直に伸び、その先に白金の光がおぼろげに映っていた。溜息を吐き出すと、彼はわき目も振らず白金の光に向かい駆け出した。やはりそれは、追いかければ逃げていった。再び彼がこちらに向かってくる。私も溜息をついた。しかし、彼の溜息とは異なる種のものであった。 

そして息が切れる頃、彼は行き止まりに辿り着いた。・・・つまり、そこは出口の無い1直線の迷路であった。
見よ!この老人の絶望に打ちひしがれた顔を!私は今まで幾度も彼のこの顔を見てきたが、皆さんは初にお目にかかるのではなかろうか。どうか、しっかりと覚えておいてやって下さいな。彼の顔を。これが絶望という奴です!・・・さてと私は夜の闇の底にに姿を現した。
「ねえ、こんばんは、おじいさん。残念だけど、君はもうすぐ死んぬんだ。」

岡田恭幸

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