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「そこにある姿についての洞察」(5)
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岡田恭幸 (同志社大学法学部法律学科2回生)*
プロフィール
E-mail:SNC01192@nifty.com |
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目の前の老人はインクとペンを取り出した。
「これ、何だか分かりますか。そうです、あなたの部屋に取り残され、先ほど意味を失ったインクとペンです。いや、もったいない。まだ使えるのに、あなたが意味を失ってしまったんで、インクとペンも意味を失ってしまいました。残念ですが仕方ありませんね・・・」 ペンの折れる乾いた音が暗闇に響き、インクは力無く地面に垂れた。まるで黒い涙のように地面に滲んだ。 「ふう、まあ仕方ありませんよね。意味を無くしてしまったんですから。これ以上、意味がありません。無念でしょうね。やり残したことがあったんでしょうね。もっとも、そんなものがあったのかどうか、分かりませんが。とにかく、もう終わってしまった事なのです。」 次の瞬間、2つの折れたペンは空を舞い地面に突き刺さった。自らの墓標のように。 「どうですか。あなたの人生は。意味を失ってしまいましたか?」 失ったと言ってしまえば死んでしまうに違いないので、醜い老人は答えず尋ねた。 「イエスと言ったらどうなる。」 醜い老人は、まんまと目の前の老人の罠に掛かってしまった。人は用意された幸福を求めてしまう。人とは、そうしたものだ。それが自身に用意された幸福では無かったとしても。用意された幸福を選択した時点では間違いに気付かない事が多い。悲劇に常に被害者的な意識を持っている人は、大抵そうした人々である。幸福とは、たやすく向こうからやって来る訳ではないので、こちらから追いかけねばいつまでも捕まえることは出来ない。それを知っている目の前の老人は、憤慨した。 「どうなる、ですって?いいですか、人生は仮定法で乗り切れる程、甘くありません!私はリセット出来ないあなたの人生に意味があったのか、無かったかと言うことを聞いているんです!」 暗闇は醜い老人に圧し掛かった。押しつぶされた醜い老人の喉は手が出るほど言葉を欲しがったが、言葉は与えられなかった。 「・・そ・・・・・」 「・・そんな事は解らない。でしょ?あなたの事など、全てお見通しなんですから。ああ、いいです、いいです、無理しなくたって。あなたには解りっこないんですから。人生から逃げ続けて来たあなたには。だから私が来たんです。」 ため息をついて目の前の老人は言った。 「多いんですよね、最近。あなたみたいな人が。自分探しの結果、自分探しをしていた自分しか残らない人が。あんまり私を困らさないで下さいね。本当にという言葉が嘘のように忙しいんですから。」 目の前の老人はすっかり落ち着きを取り戻していた。 「まず、物事を理解するためのは対極する2つの方向から見なくてはならない。1つの方向からの視点では、もう1つの方向に影ができてしいます。そうですね?」 目の前の老人は、意味を失った2つに折れたペンを指さした。意味を失った2つに折れたペンは、に醜い老人の方向からは、重なって1つに見えた。 「あなたは自分の人生を1つの方向からしか見ていない。それでは、あなたの人生に意味があったのか、無かったのか解らない。今度は、きちんと自分で確かめてください。そして意味が見つかったら、大声で私を呼んで下さい。では、また後ほど。」 目の前の老人は、始めからそこにいなかったかのように夜の闇の底に消え去った。地面に滲んだ意味を失ったインクは、すっかり暗闇に溶けていた・・・数秒後、辺りは完全な暗闇に包まれた。 岡田恭幸 ※この記事の著作権は岡田恭幸さんに属します。 本人に許可なく転載、転用等をすることを禁じます。 ※この記事に関するご意見ご感想、岡田恭幸さんへのファンレターは E-mail:SNC01192@nifty.com までお寄せ下さい。 |