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「そこにある姿についての洞察」(7)
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岡田恭幸 (同志社大学法学部法律学科2回生)*
プロフィール
E-mail:SNC01192@nifty.com |
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マイナス6時、雨がぱらつきだした。この雨も、あの水道の水のように二度と止まらないのであろうか。なぜ私は精神病院に向かっているのか。そんなことを考えながら、醜い老人は助手席に座って同じ速度で同じ動きをする2つのワイパーを眺めていた。不意に、車を運転している妻が、カーラジオを切って話し掛けて来た。
「ねえ、ただ夫婦仲良く精神病院までドライブっていうのも何だか退屈よね。だから私ね、女の子を誘拐して来ちゃったの。ほら、後ろの座席を見て」 ・・・誘拐だと?後部座席に目をやると醜い老人は背筋を凍らせた。そこにはロープで手足の自由を奪われた小さな女の子が横たわっていた。もう何日も飯を食べていない様子で、随分衰弱してた。いつからこの子はここにいるんだ?この子は誰だ?醜い老人は叫んだ。 「お前、この子をどこで誘拐したんだ!」 眉間に皺を寄せると、妻は神経的に叫んだ。 「そんな事、問題じゃないわ!私は退屈なのよ。ねえ、あなた、せっかく誘拐したんだから、この子を使ってゲームをしましょうよ」 冷笑的とも無邪気とも取れる笑みを浮かべると、妻はポケットから小さな包み紙を取り出した。その瞬間、車内に阿片のような匂いが漂った。 「ねえ、あなた、これは新種の麻薬なの。昨日、スーパーで安かったから買っちゃった。えへっ。これをヤルとね、憑き物に取り付かれたようにどこまでも走り続けちゃうの」 雨が激しさを増してきた。つられるように、2つのワイパーも躍った。嬉々とした表情の妻の声は雨音で掻き消され全く聞こえない。醜い老人はただ頷くしかなかった。 「このクスリは不思議なの。全く慣習性が無いのに驚くほど飛べるのよ。そして自分の意志で言葉を発するまでクスリの効果は続くの。ある言葉を発するまで、クスリをやった人は凄い速さで走り続けるの。ちょうどこの車と同じ速度位かしら?どう、面白いでしょ?かなりの見ものよ」 醜い老人はスピードメーターに時速120キロを確認した。 「ねえ、私、精神病院までこの子とレースがしたいわ。女はね、競争相手がいるほうが燃えるものよ。あなた、早くこの子にクスリを飲ませて頂戴!私に逆らったら、もうイイ事してあげないんだからね」 ペロリと舌を舐めると、妻は醜い老人にクスリを手渡した。片手で包み紙を受け取ると、醜い老人は女の子にクスリを飲ませた。男とはそうしたものだ。 先まで衰弱しきっていた女の子はクスリを飲むと突然、白目を剥いて暴れだし、手足の縄を自分で引き千切ると、大雨の中を走りだした。それは一瞬の出来事だった。雨はさらに激しさを増していた。つられるように、2つのワイパーも躍った。醜い老人は幽かにデットヒートを予感したが、もはやどうでもよかった。ただ彼は、熱くうずく下半身を押さえるのに必死だった。彼には女の子に対する倫理観の呵責など無力だった。男とはそうしたものだ。妻の唇が艶かしく動き、醜い老人は幽かにデットヒートを予感した。 「さあ、レーススタートよ!何だかワクワクしちやう!」 岡田恭幸 ※この記事の著作権は岡田恭幸さんに属します。 本人に許可なく転載、転用等をすることを禁じます。 ※この記事に関するご意見ご感想、岡田恭幸さんへのファンレターは E-mail:SNC01192@nifty.com までお寄せ下さい。 |