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■Lucyみさおの逃亡日記タイ・バンコック編 NO:28 乗りかかった船■
「TV?」

耳を疑うとはまさしくこのこと。その上、英語だから余計にワケがわからない。何言うてんの?ほんでどこ連れていくの?私は「?」「わっつ?(What?)」「TV?」を繰り返し、ただ兄ちゃんに背中を押されるまま、気がついたときには、ボート乗り場でTVクルーと対面していた。

何がなんだかわからないまま、とにかく「ウチ英語喋れん」を繰り返すも、彼らはまるで「わが意を得たり!」という感じで、にやりと笑い、「ええから、ええから」とついに私に取材を受けることを承諾させた。

クルーは3人。インタビュアーで、どうやらこの取材の責任者らしきポール、小太りのアシスタントディレクター、私好みのクールなカメラマン。それぞれに自己紹介をした後、この水上マーケットのオーナーであるヌイを紹介された。

ツアーの開始時間が迫り、地元のツアー参加者が続々とボートに乗り込む。私はインタビューを受けてから乗り込む段取りで、それをぼんやり眺めていると、さっきの兄ちゃんがこっそりやってきて、私に70バーツを握らせた。

「何やの?これ?」
「オーナーからやん」
「ツアー代やん、そんなんあかんやん」
「ええねん、ええねん、とにかく、はい。オーナーからやから」

ツアー客の手前もあり、二人でこそこそまるでクスリか何かを受け渡すかのようにして、結局私はオーナーのヌイの好意で、タダでこのツアーに参加することになった。

いよいよ出発。その前にTVカメラに向かって取材を受ける。日本人として、大阪人として、海外のメディアに取材される以上決して恥ずかしいことはしてはならない。堂々としていなければ ならない。背中に日の丸くいだおれ人形を背負った私は、カメラスタート!の合図とともに、にこにこ笑って腰を振ったりピースをしたりしながら、思いっきり愛想を振りまいた。

その横でポールのしゃべくりが始まる。どうやら私のことを紹介しているらしい。が、あまりに早口の英語でまったく聞き取れない。突然、彼が私にマイクを向けて聞いた。

「わっちゅあねいむ?(あんた、名前は?)」
「みさお!」
「うえあゆふろむ?(どっから来たん?)」
「じゃぱん!」
「きゃんゆうすぴーくいんぐりっしゅ?」
「のー!あいきゃんと!」

ここでポールはマイクを口に当てたまま、山の手のオクサマが笑う時のように、手の甲を頬にあて、カメラに向かってなにやらごしょごしょナイショ話をするように話しかける。ここで私はすべてを悟った。

「ネタかい!」

たまたまこの水上マーケットに取材に来ていた彼らは、チケット売りの兄ちゃんに、なんやケッタイな外国人のオバハンが一人で遊びに来ていることを聞く。そこで彼らはひらめいた。このツアーを面白おかしく取材するのに、そのオバハン、もしかして格好のネタちゃうん?ええやんそれ、いっぺん呼んで来たりいな。

果たして私は見事にネタにされ、日の丸くいだおれ人形を背負って、しっかりきっちり予想どうりにカメラの前で、出来る限りの大アホをやって見せた。これほど思うツボにはまる奴も珍しい。

ポールの「ごしょごしょ」で思いっきりネタにされた後、彼に促され、私とクルーはボートへと乗り込む。普段はひたすら逃亡日記連載のため写真とメモをとる私が、今まったく逆に取材をされ、それも「ネタ」にされている。

まあええわい。ここまできたら何でもしたろやないかい。見とけよ、逆にあんたらしっかり取材したるさかいにな。とにかく今は、思いっきりネタにされたるわい!

ボートに座り、エアジャケットを着用しながら、私は一人心の中で叫んだ。

これぞまさしく「乗りかかった船」や!

NO:29 変り行く暮らしの姿
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