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■Lucyみさおの逃亡日記タイ・バンコック編 NO:35 不思議な注文 ■
えらい別嬪でおまけに日本語達者な若い女性が、これを読んで欲しいと持ってきたのは日本の「婚姻届」。判はまだついていない。

ええよ、と安ウケアイしたのはいいけれど、難儀なことに、それほどメジャーではない県のメジャーではない土地名が並んでいて、何と読めばいいのかわからない。それでもまあ、多分こうだよ、なんていいながら、読んであげると彼女はふんふんと聞きながらも首をかしげている。

そらそうやなあ。何でまたこんなもん、持ってはんのかしらんけど、まあそれはそれなりに事情があるんやろう。今ここで読んだところで、彼女はすぐに忘れるやろうし、読みっぱなしっちゅうのは不親切な話。

私はノートを一枚破って、そこにローマ字で、婚姻届に記載されていた住所やら名前やらを書き出した。彼女がローマ字を読めるか否か、定かではないし、また、私の読み方も怪しいモンだが、それはそれでいい。

「これ、ここに書いといたから。」
そう言って彼女にそれを手渡すと、彼女は随分と喜んで、
「じゃあ、ワタシ、あなたに、チップですね。あげます。」
と言って、100バーツ紙幣を差し出した。ワタシは驚いてその紙幣を押し返した。

いつもの私なら、うっひゃーラッキー!と、大喜びで両手を差し出し、遠慮なしにおおきにおおきにと受け取るところ。だが、さすがに今回は、モノがモノだけに、ちょいと怖い。

「そんなにもらえない(間違うとったらどないすんねん)」
「10バーツ(これなら責任は逃れられる)」

彼女は「それ、いいですか?10バーツ?」

と、不思議さとすまなさの入り混じったような顔をしながらヴィトンの財布から、改めて10バーツコインを取り出し、私の手のひらに置いた。

そして、婚姻届と私がローマ字を書いた、ノートの切れ端を大切そうにバッグに仕舞いながら、「ありがとうございました」と言って去っていった。

NO:36 不思議な注文
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