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■Lucyみさおの逃亡日記番外編ベトナム・ハノイ-サパ編 NO:14 花畑■
バスを降りたらそこはもう花畑。
娘もオカンもオババもそして赤ちゃんも、日本にはない鮮やかな色で刺繍が施された衣装をまとった女性たちが通りに溢れかえる。

ガイドブックで見たちっぽけな写真に惹かれてここに来た。とにかく、ここにさえ来れればいい、そのつもりでスケジュールを組み、予算を確保した。私のわずか一週間しかない逃亡は、この瞬間のためだけにあった。

町そのものは、決して美しいわけでも、また、広いわけでもない。建物は質素で、どこにでもあるアジアの田舎町。空はぼんやりと曇り、遠くに見える山並みも日本の色とさほど変らない。その町を、驚くほど鮮やかな花畑のように美しく変えてしまうのが、通りを埋め尽くす色鮮やかな女達の衣装だ。

バックハーサンデーマーケットは、週に一度、日曜に開かれる、近隣の山村に暮らす花モン族の人々が食品や生活雑貨など、普段の生活に必要な物資を買いにくるごくごく普通の市場だ。多くの露天や食堂が並び、生きた動物が売り買いされ、鍛冶屋もいる。そして何とテレビ小屋まである。
露天商は決して観光客に媚を売ることなく、また、通り過ぎる人々も私たち”異国のケッタイな格好をした”者には目もくれない。ごくごく普通に自分たちの買い物やおしゃべりを楽しんでいる。

ツアーゆえに時間は限られていた。ここに滞在できる時間はわずか3時間。その間に、見たいところは見て、写真を撮って、買いたいものを買って、唯一の観光客向けレストランで昼飯を食わなくてはならない。私は「一緒にまわりませんか?」という日本人の女の子のとっても可愛くうれしいお誘いを「ごめん堪忍や」と言って断り、カメラを片手に市場を廻った。

ベトナム北部の山岳地帯には多くの少数民族が暮らしている。その中の一つが花モン、黒モン、赤モン、白モン、緑モンの5つの部族からなるモン族。ベトナム、ラオス、タイ、中国などの国境山岳地帯に暮らす山の民。そしてその、モン族の中で最も美しい衣装を身にまとっているのが、今、私の前にいる花モン族の女性たち。ピンク、オレンジ、グリーン、イエロー、ブルー、などなどなど、ビビッドな色とりどりの糸で細かく刺繍された衣装と頭に巻いた美しい織の布。これは決してフェスティバル用の衣装ではなく、彼女らのごくごく普通の普段着で、その証拠に、彼女達は、この姿で、畑を耕し、稲を植える。

衣装をまとった女達も、衣装や糸を売っている露天の商品も、すべてが美しく、とにかく写真を撮って撮って撮りまくる。いちいち撮影してもいいかどうかなどと聞いてはいられない。言葉も通じない。とにかく、怒られたらどこかに逃げればいい。

彼女達は、写真を撮る"ケッタイな格好をした私"のことなど一向に気にする様子もなく、商品を売りつけることもなく、ただただ、自分たちの時間を楽しんでいた。この雰囲気もまたたまらなく新鮮だ。

バスで一緒だったドしゃべりタランティーノは、小さなビデオカメラ片手に、言葉の通じないここでも、花モン族の男相手にボディランゲージで喋りまくり、いい光景を撮影していた。どうやらド素人ではないらしい。

いい絵を撮るためには、一歩踏み込んで被写体の中に入っていく必要がある。それは、物理的に近づくのではなく、表れていない何かをつかみ出すことだ。私にはできないそれをこの男はこともなげにやって見せる。

チクショウ、あいつはええ"絵"が撮れてんのやろうなあ。

3時間はあっという間に過ぎ、私はあわてて集合場所のレストランへ戻った。既に約束の時間は過ぎている。ツアーの参加者はちゃんと飯を済ませて待っている。私は腹が減ってたまらない。朝飯だって食ってない。このままトレッキングに出かけたらどないすんねん。しゃあない、ここはイッパツ。

私はガイドに飛び切りのスマイルと泣きまねで甘えまくり、ツアーの参加者全員を待たせて、昼食のフォーを腹にかきこんだ。

NO:15 牧歌



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